いま、安倍政権は「テロ等準備罪法案」の成立を目指しています。政府の説明は、「東京五輪を安全にするための法律です」「組織的犯罪集団が対象で一般の団体は対象になりません」「適用の要件は厳しくします」と説明しています。
しかし、その説明は極めて不十分ですし、とても危険な法律です。

変わりゆく社会の流れの中で、将来の社会の姿を想像する中で、心配な点がいくつもあります。政府の法案が通ると、「なんでも共謀の罪にしてしまう」危険性があるためです。「テロ等準備罪」ではなく「共謀罪」と呼ぶべき法律だと思っています。社会の状況によって意味するところも変えられるものだからです。

準備罪という名前の通り、犯罪を起こしていなくても、「話し合い計画しただけで」犯罪となる可能性があるのです。犯罪になるかどうかが曖昧で、共謀を認定するのは警察。市民が自分で犯罪かどうかがわからないと、怖くて仕方がありません。

組織的犯罪集団の定義も曖昧です。2人以上で「話し合い計画しただけで」も犯罪となります。「一般の団体でもその性格が変わったら対象になる」と政府は答弁しています。

罪の対象が幅広すぎます。当初は676の罪が対象で、その後絞られても277の罪が対象だということです。

 

先日、映画「この世界の片隅に」を観ました。昨年のキネマ旬報日本映画ベストワンに選ばれた名作です。太平洋戦争の中、軍港の街呉で暮らす本当に「普通の主婦」の暮らしを描いた作品です。食糧難の中での食事の工夫、生活の工夫が細やかに描かれ、その「片隅で懸命に生きる姿」と、最後の空襲による悲劇に胸打たれる物語です。

映画の中のワンシーンに、主人公のすずが憲兵にスパイと疑われるシーンがあります。呉の港の海軍の船を絵に描いていたら、そのことがとがめられたのです。幸い逮捕ということにはならず、家族は「まさかすずを疑うなんておかしいね」といって笑いあう結末になりましたが。当時は実際に捕まった普通の市民が大勢いたのです。このことを忘れてはならないと思います。

是非、この「共謀罪」について考えていただきたいと思います。私たちが関係のない法律ではありません。すずのような「普通の女性」が罪の対象になることも社会の状況によってあり得るのです。絵を描くのが大好きだからスケッチしていただけなのに、それが「犯罪」とみなされる。映画の中では家族までひどい目には会いませんでしたが、「家族の楽しい団らん」も、もしかすると「スパイの共謀」と言われかねません。

そんな恐ろしい時代が、遠い昔ではなくついこのあいだあったのだと、改めて思うとともに、曖昧な定義の共謀罪に不安が募るばかりです。

「この世界の片隅に」の宇都宮ヒカリ座での上映はHPによれば3月17日までの予定です。http://hikariza.news.coocan.jp